ぶらり散歩で身近な日本史

神社仏閣

東京散歩『奥の細道』出発地から下町の文化と歴史を感じる荒川散歩

荒川区は東京都の北東部に位置するエリアで、江戸時代から昭和にかけての歴史の面影が色濃く残っています。江戸時代の俳人・松尾芭蕉の最も有名な紀行文『奥の細道』は1689年に江戸を出発して東北や北陸地方を巡り書かれました。その『奥の細道』の出発点であるのが荒川区の南千住です。今日は、そんな歴史と文化が息づく下町・荒川区南千住の歴史スポットを散策してみましょう。

東京散歩「奥の細道」出発地から下町の文化と歴史を感じる荒川散歩スタート

A.(スタート)「南千住駅」モダンと昔ながらが同居する街並み

FoundJapan|荒川散歩

南千住駅は、1896年に開業し、長い歴史を持つ駅です。現在では、JR常磐線、東京メトロ日比谷線、そしてつくばエクスプレスが通り、交通の要所となっています。

近年、南千住エリアにはタワーマンションが次々と建設され、街全体が近代的でスタイリッシュな風貌に変わりつつあります。しかし、駅の北口から線路沿いに歩いていくと、そこには昔ながらの雰囲気を残すレトロな商店街が広がっており、ノスタルジックな魅力を感じることができます。

一方、南口のエリアに進むと、ショッピングを楽しめる施設が充実しており、春には美しい桜の景色を楽しむことができるスポットも点在しています。

今回は、北口から出発し、このエリアに残る歴史的な場所を巡り、時を超えて受け継がれてきた南千住の町の風情を散歩していきます。

B.数多くの歴史的な人物が眠る、静かな祈りの場所「小塚原回向院」

南千住駅の北口を出てすぐ左手に進み、旧日光街道を渡ると、石造りのモダンな建物があります。ここが回向院です。江戸時代には「小塚原刑場」として知られる処刑場があった場所で、刑死した人々を弔うために、1667年に回向院が建てられました。

FoundJapan|荒川散歩

回向院の門を中に入り進むと、右手には歴史的な人物の墓や祈念碑が点在しています。例えば、安政の大獄で処刑された橋本左内(はしもと さない)、吉田松陰(よしだ しょういん)、頼三樹三郎(らい みきさぶろう)といった志士たちや、江戸時代の盗賊として知られる鼠小僧(ねずみこぞう)の墓もここにあります。また、二・二六事件の首謀者である磯部浅一(いそべ あさいち)や、さらにはプロレスラーとして有名なカール・ゴッチの墓もあります。

境内は広くないため、約10分ほどで見て回ることができますが、じっくりとその歴史に触れる時間を持つのも良いでしょう。ただし、注意点として、回向院の見学可能時間は16:30までと少し早めです。また、閉門の15分前からは新たに入ることができないため、早めの見学をお勧めします。

回向院を出たら旧日光街道を北上しましょう。

回向院(えこういん)
荒川区南千住五丁目33番13号
Tel:03-3801-6962

C.江戸の文化人たちの交流サロンとして親しまれた神社 「素盞雄神社」

FoundJapan|荒川散歩

旧日光街道を進み、車の往来が激しい6車線の国道4号線日光街道沿いの交番横に鳥居が見えてきます。素盞雄(すさのお)神社です。

素盞雄神社は素盞雄大神(すさのおおおかみ)と飛鳥大神(あすかおおみかみ)を祀っている神社で、1200年を超える歴史を持っています。

この神社の創建に関しては、開祖である黒珍(くろちん)にまつわる伝説が語り継がれています。黒珍は、住まいの敷地内にある岩を神聖な場所として敬い、日々、熱心に礼拝を行っていました。

平安時代の延暦14年(795年)の4月8日の夜、いつものように黒珍がその岩を礼拝していると、突然その岩が光り輝き、二柱の神様が現れました。この神々は翁の姿に変わり、黒珍に語りかけました。

神々は「われらは素盞雄大神と飛鳥大神である。もしわれわれを祀るならば、疫病を祓い、人々に福をもたらし、この郷土を永遠に栄えさせよう」という御神託を授けました。

これを受けて、黒珍は直ちに祠を建て、この二柱の神様を祀りました。これが素盞雄神社の始まりとされています。

『奥の細道』矢立初め(やたてぞめ)の句碑

入り口からまっすぐ進むと、小さな橋があり、その奥には石碑が建っています。

石碑には

千寿といふ所より船をあかれは前途三千里のおもひ胸にふさかり幻のちまたに離別の泪をそゞく

行はるや 鳥啼魚の 目ハなみた(行く春や 鳥啼き魚の 目は泪)

という一節が刻まれています。

これは有名な松尾芭蕉(1644~1694)の『奥の細道』の矢立初め(旅の日記の書き出し)の一節です。

この句碑は文政3年(1820年)10月12日の芭蕉の命日である芭蕉忌に千住宿に集まる文化人が作りました。銘文は儒学者・書家である亀田鵬斎が、座像は文人画壇の谷文晃の弟子の建部巣兆が手がけました。

建碑から100年以上が経過し、風雨により文字が損傷して判読不能になっていましたが、平成7年の御鎮座 1200年祭で句碑が復刻されました。現在では全国俳句大会をはじめとした俳句の事業が行われるようになっています。

子育ての銀杏

矢立初め(やたてぞめ)の句碑の隣に、堂々と立つ大きな木が見られます。この木は「子育ての銀杏」として知られ、子供の健やかな成長を願う多くの参拝者が訪れ、絵馬を奉納しています。その昔、母乳の出ない母親たちが、幼い子供の無事な成長を祈り、この木の樹皮を煎じて飲み、米の研ぎ汁を木の周囲にまいて子供の成長を祈願したと伝えられています。今では、初宮詣(お宮参り)の時に多くの絵馬が奉納されています。奉納された絵馬は、子供の成長を願う参拝者の願いを受けて御神前に7年間供えられるということです。

地蔵・庚申塔

子育ての銀杏の左側には、歴史的な趣を感じさせる石塔群が並んでいます。この石塔群の中心には、お地蔵様が鎮座しており、その周囲に庚申塔と呼ばれる3基の石塔が配置されています。これらの庚申塔は、江戸時代に建立されたもので、区指定文化財に指定されています。また、これらの石塔群には宝篋印塔も含まれており、その存在感が一層際立っています。

FoundJapan|荒川散歩

「庚申」とは、干支の一つである「庚申(かのえさる)」を指します。昔の人々は、この日が特別な意味を持つと考えていました。庚申の日に眠りについてしまうと、人の体内に住むとされる「三尸の虫」が、その人の罪を天帝に告げに行くと信じられていたのです。そのため、罪を告げられるのを避けるために、庚申の日には徹夜して夜を過ごす「庚申待ち」という習慣が生まれました。

庚申の日は1年に6回訪れ、3年間で合計18回の庚申待ちを行うことで、諸願成就すると言われています。そして、庚申待ちの標として建立されたのが、庚申塔です。素盞雄神社の庚申塔は、延宝6年(1678年)に建立され、三匹の猿と二羽の鶏が精巧に刻まれています。猿は、人が罪を「見ざる、言わざる、聞かざる」ようにとの願いを込めて彫られ、一方で鶏は、早く朝が訪れることを願って刻まれました。

現在本堂が工事中ですが、参拝は可能です。

素盞雄神社
荒川区南千住6-60-1
Tel:03-3891-8281 (9時~18時)
公式ホームページはこちらから

また、素盞雄神社から隅田川に架かる千住大橋を渡った場所にも、『奥の細道』に関連した祈念碑などがあります。

D.荒川区の歴史と松尾芭蕉の旅路をひも解く 「荒川ふるさと文化館」

素盞雄神社の裏鳥居から出ると、通りを挟んだ隣に、江戸時代に幕政の改革を訴え、安政の大獄で処刑された武士である橋本佐内の坐像が安置されているお堂があります。お堂の奥の建物の1階が「荒川ふるさと文化館」です。

入館料は100円で、縄文時代から現代に至るまでの荒川区の歴史の展示があります。荒川区は中世以降に農工業を中心に発展を遂げ、近現代にかけて日暮里の繊維街をはじめとしたものづくりの文化が浸透しました。これは近くにあった荒川(現在は隅田川)によって水資源が豊富で、物流も盛んであったことがわかります。また奥の細道の旅程の展示や昭和41年当時の町並みが再現されています。

訪れた日はとても暑く、スタッフの方がうちわを貸してくださり、あたたかい下町人情を感じることができました。

荒川ふるさと文化館
荒川区南千住6-63-1(南千住図書館併設)
Tel:03-3807-9234
公式荒川区ホームページ 
荒川ふるさと文化館のページはこちらから

E.レトロな雰囲気の喫茶店で休憩 「オンリー」

南千住駅に戻る途中に、赤い看板に「魔性の味」と気になる文字が書かれた喫茶店「オンリー」があります。こじんまりとしたお店のドアを開けると、昭和の時代にタイムスリップしたかのような落ち着いた、どこか懐かしさを感じる雰囲気が漂っています。

お店の一番人気は昔ながらのホットケーキです。外はカリカリで中はしっとりのホットケーキは見た目よりもボリュームがあります。ミニサラダもついており、お得感があります。

お会計は現金のみなのでご注意ください。お店の方はとても穏やかでホッコリとしました。

オンリー
荒川区南千住5丁目21−8
Tel: 03-3807-5955
9:00 - 18:00
定休日:日曜日

F.南千住駅に戻り終了

喫茶店「オンリー」を出て、南千住駅に戻ったら終了です。

荒川区には寺社仏閣が集まっていて、他にも魅力的な場所があります。また、南千住駅の南口方面には自然が美しいエリアがあるので、時間が余ったらぜひお楽しみください。今日の散歩はここまでです。お疲れさまでした!

東京散歩『奥の細道』出発地から下町の文化と歴史を感じる荒川散歩のおさらい

A.(スタート)南千住駅
↓ 150m
B.回向院
↓ 600m
C.素盞雄神社神社
↓ 150m
D. あらかわふるさと文化館
↓ 600m
E.喫茶店 「オンリー」
↓ 300m
F.(ゴール)南千住駅

東京散歩『奥の細道』出発地から下町の文化と歴史を感じる荒川散歩 周辺のおすすめ記事

RELATED

PAGE TOP